脂肪注入・脂肪採取について

↑脂肪の精製の例(遠心分離法)
「痩せる」脂肪吸引と「移植する」脂肪採取の違い
痩せる目的での脂肪吸引と、脂肪移植目的での脂肪採取は、やり方は似てますが、少々違います。痩せる目的では脂肪は減らすことが達成できるように、3mmほどの太さで大きめの穴をもつカニューラ(脂肪吸引するための棒状の手術器具です。

図1)カニューラ(脂肪吸引するための棒状の手術器具です)
で、強めの吸引圧で吸引します。脂肪注入に使う場合(ここでは脂肪採取と言います)は、2-2.5mmのカニューラからの採取が望ましく、穴も脂肪吸引のものと比較すると小さいです。なぜならば、脂肪採取量は必要な分だけ行い、かつ脂肪組織は小さいものが良いからです。大きい脂肪組織は移植しても生着しません。移植された脂肪組織は周りの組織から、血管が入り込んでくることで、血流を獲得し、生着します。2mmほどの厚さ以上になると、脂肪組織の中心部が壊死に陥るとされています。どのくらい厚い脂肪があるかによって異なりますが、大体、手のひらの面積(人にもよりますが150-200㎝2)あたり50-100ccの脂肪が採取できます。皮膚に近く、浅いところを採取すると痛みや出血が多かったり、術後に凸凹になったりしますので、なるべく避けるよう意識します。スポーツなどにより酷使している部位は線維化といって、脂肪を固定している組織が硬く強固になるので、あまり採取できない場合があります。
採取した脂肪の質を高める「精製」プロセス
採取した脂肪は精製されます。
精製には静置法・遠心分離法・フィルター法など、いろいろな方法があります。静置法を支持する医師は、遠心分離による脂肪組織の損傷を気にしますし、静置法では、脂肪組織のほかに体液の一部も混入するのですが、その液体には様々な成長因子を含んでいるので脂肪組織の生着に良いだろうと考えています。遠心分離を支持する医師は、短時間で精密な精製(不純物がよりすくなく、これが生着によいだろうと)ができることが良いと考えています。遠心分離法には遠心分離器やそれに関わる道具・滅菌などのコストがかかります(当然、費用に反映されます)。どちらの方法が統計学的に脂肪の生着が優れているといったエビデンスは今のところありません。
最も重要!生着率を決める「注入技術」
注入脂肪の生着率は30-40%と言われており、脂肪の生着率を高めるために、脂肪幹細胞を付加したり様々な工夫がされています。しかし最も重要なことは、注入方法です。たくさん脂肪が採取できたとて、受け入れる側のキャパを考えずに多く入れてしまうと脂肪生着率は悪くなります。注入量は乳房の大きさの50%が限度です。 例えば75A-Bカップでは片方で100-150ml(静置法で)程度です。ですので、脂肪注入による豊胸術は複数回必要になること多いです。キャパを増やす方法もあります。術前にEVE(体外式乳房吸引装置)といって乳房にカップ状のものをかぶせて、吸引圧をかけます。すると組織が伸びて、脂肪生着量(率)を増やすことができます。

また1部位にいれる脂肪の量もとても重要です。乳房の多方向より注入用のカニューラで皮下浅め・皮下・乳房下・筋層(乳腺は組織が強くあまり注入できません) 10㎝あたり1ml注入していきます。
術後は72時間 注入部の圧迫を控えましょう。
参考文献 Plastic surgery 5th edition, Neligan et al