美容整形の傷跡は何で決まる?形成外科医が手術中に考えていること
Netflix『ダウンタイム』から考える、美容医療のリアル
Netflixシリーズ『ダウンタイム』の中で印象的だったシーンのひとつに、形成外科と美容外科の距離感が垣間見える場面があります。事故に遭った沼田先生が顔の治療について診察を受けた際、「美容外科みたいですね」と言うと、形成外科医が「一緒にしないでください」と返すシーンです。
少し強い言葉ですが、形成外科医として観ていると、「こういう感覚はあるな」と感じる場面でもありました。
では、そもそも形成外科では、どのようなことを学ぶのでしょうか。
形成外科は、外傷や熱傷、先天異常、腫瘍切除後の再建など、損なわれた形態や機能を再建することを専門としてトレーニングを受ける診療科です。
その中で、研修のかなり初期から繰り返し学ぶことのひとつが、
「どうすれば傷をできるだけきれいに治せるか」
ということです。
今回は、形成外科医が手術中に傷をどのように考えているのか、お話ししたいと思います。
Netflixシリーズ『ダウンタイム』公式ページ
傷跡は「縫い方」だけで決まるわけではありません
「形成外科の先生は、縫うのが上手なんですよね?」
そう思われることがあります。
もちろん、縫合技術はとても大切です。
形成外科では、必要に応じて髪の毛よりも細い糸を使用し、組織を正確に合わせて縫合することもあります。
ただ、傷をできるだけきれいに治すために考えているのは、最後の「縫う」という工程だけではありません。
切開する前から、すでに傷の治り方を考えています。
「どこを切るか」から傷跡への配慮は始まっている
皮膚には、場所によって動き方や緊張のかかり方に違いがあります。
そのため手術では、
どの方向に切開するのか。
皮膚にどの程度テンションがかかるのか。
周囲の血流をどう保つのか。
どの組織を、どこまで操作する必要があるのか。
といったことを考えながら手術を設計します。
形成外科では、
- 皮膚に余計なテンションをかけないこと。
- 組織を愛護的に扱うこと。
- 血流を保つこと。
- 傷の方向や皮膚の緊張を考えること。
- 組織を正確に合わせて縫合すること。
こうした一つひとつを大切にしています。
「愛護的に扱う」とは?
1本目の記事でも少しお話しした「愛護的」という言葉。
形成外科ではよく使う言葉ですが、患者さんには少し分かりにくいかもしれません。
簡単にいえば、組織に必要以上のダメージを与えないよう、できるだけ丁寧に扱うことです。
皮膚の下には、血管や神経、筋肉、脂肪など、さまざまな組織があります。
それぞれがどこにあり、どのような役割を持っているのかを理解したうえで、必要な部分だけを適切に操作する。
血流をできるだけ損なわない。
必要以上に組織を傷つけない。
こうした積み重ねも、術後の経過を考えるうえで重要です。
手術が終わった瞬間が「完成」ではありません
私自身、手術をするときにいつも意識していることがあります。
それは、
「切る・縫う」だけではなく、その傷が数か月後にどう治っていくかまで考えながら手術すること。
です。
手術直後の傷と、数週間後、数か月後の傷は同じではありません。
傷は時間をかけて変化し、成熟していきます。
だからこそ、「手術が終わった瞬間にきれいに見えるか」だけではなく、その後どう治っていくのかを考えながら手術をします。
美容外科・形成外科では、手術直後ではなく、腫れが引いて組織が落ち着いた状態を想定して手術を設計することが重要です。
「傷跡を残さない手術」はありません
美容医療では「傷跡が残らない」という言葉に惹かれる方もいるかもしれません。
ただ、皮膚を切開する以上、傷ができること自体をゼロにすることはできません。
医師ができるのは、
傷をできるだけ目立ちにくくするために、どこを切り、どう組織を扱い、どう縫い、そして術後どのように経過を見ていくかを考えること。
そして、傷の治り方には患者さん自身の体の状態も関係します。
同じ手術、同じ縫合を行ったとしても、すべての方がまったく同じ傷跡になるわけではありません。
だからこそ、術前に「傷はどこにできるのか」「どのような経過をたどる可能性があるのか」まで説明を受け、納得したうえで手術を受けることが大切だと思います。
形成外科医として、傷の「その先」まで考える
美容外科では、形を変えることに目が向きがちです。
- 二重にする。
- たるみを改善する。
- 鼻の形を変える。
- 輪郭を整える。
もちろん、希望する仕上がりを考えることはとても大切です。
でも、そのために
皮膚や組織をどう扱うのか。
- どこに傷ができるのか。
- その傷が数か月後にどうなっていくのか。
- 機能を損なわずに形を変えられるのか。
「どう変えるか」と同じくらい、「どう治っていくか」を考える。
これは、形成外科でトレーニングを受けてきた私が、美容外科の手術でも大切にしていることのひとつです。
美容医療を検討するときには、仕上がりの症例写真だけでなく、
「傷はどこにできますか?」
「どのくらいで落ち着きますか?」
「傷跡はどのように変化していきますか?」
といったことも、ぜひ遠慮せず医師に聞いてみてください。
手術をするのは医師ですが、その後、傷を治していくのは患者さん自身の体です。
実は、手術を受ける前からできることもあります。
監修・執筆
松宮 詩依
UTOPIART CLINIC EBISU 院長
形成外科医