リンパ浮腫について
リンパ液は組織に入る液体の10%と言われており、シンクとして考えるとわかりやすいです(図1)。動脈が水道の蛇口、静脈が排水口、静脈が処理しきれなかったものが、横穴(オーバーフロー)から流出します。これがリンパ管です。リンパの役割は水分コントロールと老廃物などの除去です。

むくみの原因は心臓や腎臓など多岐にわたります。リンパ浮腫は一般的な内科の検査で原因がわからない場合に考える疾患です。リンパ浮腫には生まれつきの原発性と続発性に分かれます。続発性は乳がんや子宮頸がん、大腸がんなどの手術でリンパ節切除を行ったものが、ほとんどでリンパ浮腫の90%以上を占めます。
リンパ浮腫の症状は、例えば足であれば足がむくむ、足が重たい、歩きにくい、足がだるいなどで、場合により蜂窩織炎というバイ菌感染症を引き起こします。これらの症状は、がんの手術直後からすぐに出ないことが多いです。多くの場合、7・8年など数年経ってから症状が出始めます。なぜ数年経ってから症状が出るのでしょう? 理由は諸説ありますが、リンパ節が切除された後、早期は残されたリンパ節やリンパ管が頑張り、症状が出ません(図2 拡張したリンパ管:リンパ管の圧力が高くなって管が太くなります)。リンパ管の圧力が高いまま維持されると、徐々にリンパ管の壁が厚くなっていきます。外見のリンパ管は太くなってはいますが、実際のリンパ液が通る空間は細くなっていきます。次第に防水機能が落ちていき、リンパ液が漏れるようになっていきます。ここでむくみが発生します。初めは横になって足を挙げているとむくみは引くこともありますが、だんだんと一晩寝てもむくみが引かなくなっていきます。リンパ液によるむくみが維持されると、流れの遅い川が汚れていくのとおなじように、老廃物が組織にたまり慢性的な炎症が起こります。また、バイ菌に弱くなり、蜂窩織炎をおこすようになります。このことにより、さらにリンパ管への障害が起こり、ついには閉塞します。

リンパ浮腫の治療は弾性ストッキングを履いたり、リンパマッサージを受けたりすることが基本ですが、検査により手術が可能な場合があります。リンパの流れがとどこおっている手前で、リンパ管を静脈につなぎます(リンパ管静脈吻合術:LVA)。渋滞していたリンパ液が静脈に流れてむくみが改善することを期待した手術です。リンパ液は最終的には胸で静脈と合流するので早めに静脈に入っても問題はないです。通常、複数カ所に行うことが多いです。図3で言うとオーバーフローの穴と排水管に管をつけて、あふれ出そうな水分を流すようなイメージです。この手術はなるべく早期に行うことがもっとも良く、リンパ浮腫が進行すると、リンパ管が狭窄·閉塞してくるのでこの手術が難しくなり、効果が薄くなる場合があります。

過去に癌の手術でリンパ節を切除した方は症状がなくても1度検査してみてはいかがでしょうか?
執筆者:医師 根本 仁 (日本形成外科学会専門医・指導医)