見過ごされがちな下肢リンパ浮腫のサイン
専門医が解説する症状とケア
リンパ浮腫とは
リンパ浮腫とは、リンパの流れが滞ることによって、体の一部にむくみ(浮腫)が生じる状態です。特にがんの手術や放射線治療の後に起こりやすく、腕や足などにむくみが出ます。ここでは、下肢(脚)に生じるリンパ浮腫についてご説明します。
下肢リンパ浮腫の症状について

むくみに気づきにくい初期段階
初めのうちは、はっきりとした症状が出ないことが多く、なんとなく違和感や張る感じ(緊満感)、軽いこわばりなどが現れる程度です。ただ、「ズボンがきつく感じる」「靴が入りにくい」といった日常のちょっとした変化が、初期のサインであることもあります。
徐々に進行するボリュームの増大
むくみが進行してくると、足が大きく腫れてくるようになり、次のような日常生活での不自由が生じてきます。
- 普段のサイズの靴やズボンが入らない
- サンダルしか履けなくなる
- 左右の靴のサイズが合わなくなる
- 女性であっても、男性用の大きめのズボンを選ばなければならない
- 足を曲げるのが難しくなり、しゃがみ込めない、和式トイレが使えない
- 正座ができない
- 階段の昇り降りがつらくなる
- 行動範囲が制限され、外出や移動が億劫になる
- むくみが重く、歩くことが難しくなり、車いすが必要になることもある
こうした症状はゆっくりと進行するため、気づいたときには日常生活に大きな影響を及ぼしていることも少なくありません。
リンパ浮腫と蜂窩織炎(ほうかしきえん)
リンパ浮腫のある部位では、蜂窩織炎(細菌感染による皮膚と皮下組織の炎症)が起こりやすくなります。
リンパ浮腫に特有の蜂窩織炎
一般的な蜂窩織炎と異なり、リンパ浮腫のある足では、はっきりとした境界がなく、ぼんやりと赤く腫れるのが特徴です。急性の炎症が起きていないときでも、足に赤みや熱っぽさを感じることがあります。これは、リンパ液がたまり、そこから炎症物質(サイトカイン)が放出されることで、慢性的な炎症が起きている状態です。
さらに、ちょっとしたストレスや風邪、疲れなどが引き金となって、蜂窩織炎が急に悪化することもあります。
蜂窩織炎の原因と症状
蜂窩織炎は、皮膚の少しの傷から細菌が侵入して引き起こされる感染症です。たとえば:
- 虫刺され
- 小さな擦り傷やささくれ
- 爪の周りの細菌感染
- 水虫などの真菌感染
- カテーテルや注射針による皮膚刺激
リンパ浮腫の患者さんでは、目に見える傷がなくても蜂窩織炎を発症することがよくあります。また、体力の低下や疲労、風邪なども発症のきっかけになります。
症状としては、リンパ浮腫の部位に次のような変化が見られます:
- 赤み(発赤)
- 腫れ(腫脹)
- 痛み(疼痛)
- 熱感(熱を持っている感じ)
これらは短時間で急速に広がることがあり、早めの受診と治療が大切です。
おわりに
リンパ浮腫は、日常の中でふとした違和感から始まり、生活の質に大きく関わる病気です。早めに気づいて適切なケアを行うことで、症状の進行を防ぎ、より快適に過ごすことが可能です。また、感染を防ぐためには、皮膚の清潔を保ち、傷を作らないよう注意することも重要です。
執筆者:医師 京野(日本形成外科学会専門医)